硝子体手術
硝子体手術
当院では日帰りで、様々な疾患の硝子体手術に対応しています。対象となる疾患は、糖尿病網膜症、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑前膜、網膜静脈閉塞症、硝子体出血、眼内レンズ脱臼です。疾患によっては入院が必要なほど重症な場合もあり、入院設備が整った病院へ連絡して紹介させていただきます。
硝子体(しょうしたい)は、コラーゲン繊維と水を含んだヒアルロン酸を成分とするゼリー状の透明な組織です。水晶体よりも奥の部分(硝子体腔)を満たし、眼球の容積の大半を占めています。前方は水晶体に接し、後方の大部分は網膜および視神経と接触しています。硝子体は加齢や疾患によって変質し、網膜を引っ張ったり、濁ったりすることで目の障害を引き起こします。この変質してしまった硝子体を除去する手術が硝子体手術です。同時に網膜に生じた病変も治療します。
眼科の手術は、水晶体を境にして、その前と奥では難易度がまったく異なります。水晶体の奥にある硝子体に対する手術は、眼科領域で最も高度な手術で、特別な技術と設備を要します。現在に至っては、様々な手術機器や手技の発展により、手術の安全性が高まり、手術成績もかなり向上してきています。当院では、最新の手術設備と熟達したスタッフをそろえ、より安全で確実な硝子体手術をめざしています。
硝子体手術では、濁った硝子体や眼内出血、網膜にできた余分な膜などの除去、網膜に空いた裂孔(れっこう)の修復などが行われます。
実際の手術は、眼球の白目部分に3カ所、0.5mmの小さな穴を空けます。1つめの穴には灌流ラインを設置して、常時、眼内に人工の硝子体液を供給し、眼球の形態と眼圧を一定に保つようにします。2つめの穴には照明器具を挿入し、眼内を明るく照らします。3つめの穴には硝子体カッターと呼ばれる器具を挿入します。
この器具で、出血や混濁した硝子体を切除して吸引除去します。また、疾患によって、網膜上に張った膜をピンセットで除去したり、網膜に空いた裂孔部分をレーザーで固めたりします。最後に人工房水や空気、ガスを満たして手術終了となります。
通常、局所麻酔で行われ、手術時間は症状によりますが30分~1時間程度です。※重症の場合は1時間以上かかる場合もあります。また、硝子体手術後に白内障が進行するともいわれているため、50歳以上の方には、白内障がなくても白内障の同時手術を行うのが標準的となっています。
正常眼底
糖尿病網膜症眼底
糖尿病の三大合併症の一つであり、日本人の失明原因の第2位を占めています。糖尿病の罹患期間が長いほど発症率が高く、数年から10年以上経過すると網膜をはじめ眼組織に様々な障害を起こします。
「単純」「増殖前」「増殖」の病期に分けられ、それぞれの時期によって治療が変わります。視力低下を引き起こす「糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうおうはんふしゅ)」は、すべての時期で併発する可能性があります。進行した増殖糖尿病網膜症では、状態によって注射やレーザー治療を行うこともありますが、眼内での出血が広がっている場合などは硝子体手術が選択されます。
早期発見と早期治療が大切な疾患です。糖尿病を発症している場合には、これといった眼症状がなくても半年から1年ごとに眼科の受診を心がけてください。
正常眼底
網膜剥離眼底
網膜剥離は、眼球打撲、加齢や強度近視などが原因で、網膜に亀裂や穴が空き、網膜が剥がれてくる病気です。進行するにつれて視界に異物が見えたり、視野が狭くなったり、視力が落ちてきたりします。液化した硝子体が入り込み、徐々に網膜が剥がれる「裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離」、糖尿病網膜症などで起こる「牽引性(けんいんせい)網膜剥離」、炎症によって生じ網膜裂孔がない「滲出性(しんしゅつせい)網膜剥離」などがあります。
放置すれば失明に至る危険性がありますので、早期に発見し、適切な治療を受けることが重要です。硝子体手術では裂孔を塞ぎ、剥離した網膜を元の位置に戻すガスを注入し視機能の回復をめざします。手術後はうつ伏せか横向きの姿勢を保つことが必要です。
正常眼底
黄斑円孔眼底
黄斑円孔は、網膜の中で中心視力に重要な黄斑部に小さな穴(円孔)が空く病気です。加齢などによって硝子体が縮むときに、網膜が一緒に牽引され(引っ張られ)、黄斑部に亀裂が生じ、穴が空きます。
進行具合によって症状は様々ですが、急に視力が悪くなったり、視野の中心が黒く見えたり、物が歪んで見えたりします。硝子体手術で、原因となった硝子体を切除し、眼の中にガスを入れて円孔を塞ぎ、視力の改善を図ります。手術後はうつ伏せか横向きの姿勢を保つことが必要です。
正常眼底
黄斑前膜眼底
加齢などによって硝子体が縮み、硝子体が網膜から離れることによって起こる病気です。網膜の表面に残った硝子体の細胞が増殖し、セロハンのような膜(黄斑前膜)が形成されることで、物が歪んで見えるなどの症状が出現します。硝子体手術では貼りついている黄斑前膜を除去し、視力の改善を図ります。
正常眼底
網膜静脈閉塞症眼底
網膜の静脈が詰まって血液が流れなくなる病気です。眼球後方の静脈の根元が詰まる「網膜中心静脈閉塞症」と、静脈の枝分かれ部分が詰まる「網膜静脈分枝閉塞症」があります。高血圧や動脈硬化、糖尿病のある方に多いとされています。
静脈が詰まると静脈の圧力が上昇し、網膜の血管が蛇行したり、広がったり、出血したりします。また、網膜に血液中の水分がたまると浮腫を起こします。網膜の黄斑部に出血や浮腫を発症した場合、視力が著しく低下します。血管新生緑内障や硝子体出血などを合併することもあります。進行例で眼内での出血が広がっている場合などは硝子体手術が選択されます。
網膜の血管が破れて透明な硝子体というゼリー状の組織が血液に染まって視界を遮っている状態です。全体に暗く見えたり、赤黒いモヤが目の前を遮って見えます。網膜血管が破れる原因としては、上述したような糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜血管瘤破裂、加齢黄斑変性症などがありますが、多量の出血により、網膜の状態が診察で観察できず手術前に原因が分からない場合があります。
手術後に視力が回復するかどうかは原因となる疾患によって決まります。出血量が少ない場合は自然に出血が吸収されて回復しますが、出血量が多い場合は硝子体手術が選択されます。
以前に白内障手術を受けた時に眼内に挿入した眼内レンズはチン氏小帯という靭帯によって支えられています。まれに、外傷・緑内障・アトピーなど様々な原因で靭帯が切れて、眼内レンズが網膜の方向へ脱臼した場合は視力が悪化します。脱臼の程度が大きい場合は硝子体手術によって脱臼した眼内レンズを摘出、適した眼内レンズに入れ替えて固定する必要があります。
このように硝子体手術の適応となる疾患は多岐にわたり、実際には疾患によって硝子体や網膜の状態が大きく異なります。そのため患者様ごとの状態に即した説明に関しましては、一般的な内容に追加して、主治医から詳しくご説明させていただきます。
現在、硝子体手術は広く安全に行われていますが、合併症が起こることもあります。出血や感染症、網膜剥離、角膜障害、緑内障、黄斑浮腫などが代表的なものといえます。このうち出血や感染症など、術後の見え方に影響を及ぼす合併症は実際には極めて稀で、通常、あまりご心配いただく必要はありません。
それ以外の一般的に起こりうる合併症においても、適切な治療を行うことで十分対応が可能ですので、どうぞご安心ください。詳しくは、主治医またはスタッフにお気軽におたずねください。
手術を受ける前に
手術前日までに様々な検査を行い詳しく診察します。白内障手術を同時に行う場合は、眼内レンズを決定するための検査も行います。
術前検査・点眼(散瞳薬点眼)
手術当日は、なるべく付き添いの方といらしてください。血圧・眼圧などを測定し体調を確認します。問題がなければ散瞳薬を点眼して瞳孔を開きます。
麻酔(点眼麻酔・テノン嚢下麻酔)
麻酔は全身麻酔ではなく、手術をする眼だけに効かせる局所麻酔(部分麻酔)です。点眼麻酔を行ったのちに眼球全体に麻酔を効かせます。
手術
局所麻酔ですので手術中は意識がはっきりしています。耳も聞こえますし話すことも可能です。動きたいときや不具合のある場合には、我慢せずいつでも医師にお声がけください。手術が終了しましたら、眼帯を装着していただき回復室にお戻りいただきます。
術後の休憩
回復室でしばらく安静にしていただきます。眼内に気体を注入した場合は、ベッドで1時間ほどうつ伏せ姿勢を保持した後に帰宅していただきます。
帰宅後
帰宅後はその日は入浴できませんのでお顔に触らずに体を拭く程度にしてください。眼帯を装着したまま就寝し、翌日外来診察にいらしてください。翌日に外来診察にて眼帯を外し、眼の状態を診察します。